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こんにちは、弁理士の宮﨑浩充です。
ICTを活用した営農システム
野口 伸 監修
(北海道協同組合通信社)
流行りの「ICT」「農業」というキーワードに乗っかって読んでみました。
執筆者は、大学、研究機関、企業に属する研究者達です。一般向けの本ですので、細部の技術に関する説明は端折られており、分かり易く書かれています。
よく言われているように、画像処理や位置検出技術が農業分野に適用されている具体例が多く示されていました。なるほどと思うのと同時に、あともう一歩だなと思いました。
私の祖父は専業農家でした。毎日田んぼや畑に足を運び、作物の生育の度合いや水や土の状態をつぶさに見て回るのが日課でした。
見た結果を基に、農薬や肥料の選定、投入量やタイミングを細かく決定していました。農薬や肥料を、田んぼ毎に変えていることもありました。
それらの決定は、何かの法則に基づくものではなくて、全て親から教わったことや永年のカンのようなものに基づいていました。
それでも、一般的に難しいと言われるトウモロコシなども上手に作っていましたし、食べた私たち家族もおいしかったと記憶しています。
この本には、農業のICT化に際して、作物の生育モデルを構築するのが困難であると書かれていました。生育モデルというのは、簡単に言うとどのような条件が与えられると、作物がどのように育つのかという一般的なサンプルです。これを基にして、様々な技術を適用し、作物を実際に育てていくのです。
それは確かに難しいと思います。それこそが、ベテラン農家が持っている暗黙知(ノウハウのようなもの)なのでしょうから。
私が先ほど、あと一歩だなと思ったのは、農家の暗黙知をコンピュータに学習させるのにもう暫く時間が必要だからです。
作物は、基本的には一年のうち、ある時期にしかできません。一年間に取得される生育例(サンプル)の数は、どうしても限られるのです。
でも、農家はどんどん高齢化しています。農家から学習できるタイムリミットも迫っているのです。
そこには、非常にシビアな時間との戦いがあるのです。
もちろん、今は大学の農学部の実験農場などから知見を取得できます。ですから、ある程度の品質の作物を作れるようにすることは可能でしょう。
でも、ある程度の品質のものでは、付加価値がさほど高くはありません。
作物にあまり高い値段を付けられないのです。多くの利益が見込めないようでは、農業があまり魅力のある産業ではなくなってしまいます。
やはり一級品を作る必要があり、そのためには、ベテラン農家が持っている精緻なノウハウが欠かせないのです。
この本、2015年11月の出版です。そこから2年が経過しようとしています。
今はどうなったのでしょうか?間に合ったのかな?
織田・徳川同盟と王権
-明智光秀の乱をめぐって-
小林 正信 著
(岩田書店)
この著者の作品については、以前ここで紹介したことがあります。
桶狭間合戦に関するものでしたが、今回紹介する上記の本は、桶狭間合戦後の織田政権の発展と本能寺の変に向かう過程を考察したものです。
この本では、明智光秀の地位、織田政権による支配の構造、さらには足利幕府体制に対する緻密な分析がなされています。その上で、事件の動機を鋭く解明していきます。
先達の研究成果を紹介し、ときとして信用性の高い資料を用いた批判を行い、無理のない論理で本能寺事件への筋を展開しており、研究書でありながらつい惹き込まれてしまいます。
この本、2005年の出版です。私の勝手な感覚ですが、2000年を越えた辺りから、小説などでも本能寺事件における秀吉や細川藤孝の関与を描いた作品が出てきたように思います。
背景には、本能寺事件に対する研究の深化があったのでしょうか。
いつも思うのですが、過去の事実を証拠に基づいて正確に再現するのは大変難しいことです。どうしても一面的な再現になってしまったり、真相にまでたどり着けなかったり、となります。
ましてや400年以上昔の事件、しかも政治・軍事上の機密に関わる事件です。正確に再現できる方がおかしいのかもしれません。
ところで、この本では、織田信長の政権の方向性について、徳川家康との同盟が大きな影響を有していたことを指摘しています。ここにもまた、たいへん興味深い考察が加えられています。
関ヶ原合戦では織田家旧臣の大名はほぼ東軍に味方したこと、豊臣家を滅ぼした後に家康が太政大臣に就任して朝廷を封じたことなどを挙げ、徳川幕府の基本は織田信長の政権構想に基づいていると結論付けています。
これが正しいのかどうか私には分かりませんが、論拠をはっきりと示して話の筋道を立てているため、一定の説得力があります。
本能寺事件に関する研究は、まだまだ完成されたものではないようです。今後のさらなる深化を楽しみにしています。
新訂 公証人法
日本公証人連合会 編
(株式会社 ぎょうせい)
この本は、公証人により行われる公証手続を、公証人の立場から詳細に解説した解説書です。
弁理士が公証人のお世話になる場面として最も多いのが、外国出願関連で委任状などに対して受ける認証ではないでしょうか。出願する国によっては、公権力による証明を受けることにより一定の証拠力を備えた文書の提出が求められることがあります。
また、研究ノートやウェブサイトを印刷出力したものなどに確定日付を受けたり、図面などを封印して署名した上で確定日付を受けたりするのは、知的財産業界では普通に行われることです。
私も事務所勤務時にこれらのことを教わりました。
先日、事実実験公正証書について検討することがあり、上記の本を読み込みました。あいにく、費用が高額になりそうだったために断念しましたが、おかげでどのような場面で用いるのが適切なのかがよく分かりました。
ところで、上記の本には、何と日本弁理士会が出版する月刊誌「パテント」の記事が引用されている箇所がありました。読んでみると、当時の特許委員会が、日本公証人連合会と交流を行い、弁理士がどのように公証制度に関与し、利用するとよいのか研究されていたようです。
不肖の後輩が間違いをすることなく実務をできているのは、偉大な先輩方の研究成果のおかげです。
吹けよ風 呼べよ嵐
伊東 潤 著
(祥伝社)
標記の本は、信州の豪族(国衆)、須田満親を主役とする川中島合戦をめぐる物語です。
大多数の方は、須田満親??という感じでしょう。
ご存じの方がいれば、かなりの歴史通。
私はこの本を読むまで全然知りませんでした。
この本では、武田信玄と上杉謙信とが衝突した川中島合戦が、上杉方についた須田満親の目から描かれています。
上杉方から描くならば、なぜ上杉謙信を主役にしないのか、という疑問はあるかもしれません。
じつは私はこの著者の大ファンでして、ほぼ全ての著書を読んでいます。
共通しているのは、いわゆる天下人やメジャーな武将ではなく、世間で全く知られていない武士や、一応の認知度はあるものの実像についてはあまり知られていない大名が主役になっていることです。
信長・秀吉などの天下人や、信玄・謙信といった超メジャー級の武将を、第三者の目を通して物語の中で描くことで、うまく言えないのですが、その偉大さや不気味さが却ってよく伝わってくるのです。
それに、頂点に立つ人間が主役ではないだけに、読者が自分に置きかえて読み進めることができるので、物語に没入しやすい気がします。
もう一つ、この著者の作品で登場する主役は、勇敢で潔く、律儀で名誉を重んじるなど、武士の美徳とされている特徴を備えています。
そして、弱小ながらも自分の置かれた立場において、武士として美しく命を燃やして生きている姿に、私は感動させられっ放しです。
自分には到底無理かもしれませんが、ほんの少しずつでも品性を磨き、この本の登場人物のように美しく生きて行きたいと思います。
明細書作成実務講座
泉 克文・吉田 正義 著
(東洋法規出版)
標記の本は、明細書作成実務の未経験者に対して、明細書作成のための基本的な事項を説明したものです。
その昔、未経験者は、特許事務所に就職して、いわゆるOJTの手法で、ボス先生や先輩達に明細書作成のイロハを叩き込まれていたようです。
当時は標準的なテキストなど乏しく、明細書作成のノウハウは、それぞれの弁理士や事務所により磨き上げられ、これらが実務の中で後進たちに伝授されていました。
時代は下り、弁理士試験の合格者が増加すると、弁理士試験に合格しても特許事務所に就職できないケースが出てきました。
このような新人弁理士達が最低限のまともな仕事をできるよう教育する必要性が高まり、明細書の書き方を指南するテキストなどが出てくるようになりました。
標記の本には、かつてOJTにより伝授されていた明細書作成のイロハが、まるで噛んでふくめるように分かり易く書かれています。
著者の先生方も、おそらくこのようにして特許事務所で明細書の書き方を教わり、成長されたのでしょう。
私は勤務している頃、ボスから多くの大切なことを教わりましたが、それらがこの本にもしっかり書かれているのです。
そういう本ですので、特に目新しいことが書かれているものではありません。
弁理士なら当然に知っているべきことや考えるべきことが、ストレートに示されています。
でも、そういう大事なことほど、つい忘れたり落としたりしてしまいがちです。
この本は、現在では絶版しているようです。 ただ、ここで書かれていることの重要性は、現在も変わるものではありません。