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こんにちは、弁理士の宮﨑浩充です。
地場・伝統産業のプレミアムブランド戦略
長沢 伸也 編著
(同友館)
この本は、早稲田大学ビジネススクールでブランド論を研究する先生の書かれた本です。
ブランド戦略という言葉は、今ではホントによく聞く言葉です。そして、この分野も相当に研究が進んでいるのでしょう。大体同じようなことが書かれていたり、セミナーで話されていたりします。
では、この本も同じかというと、そうでもありません。
著者の先生は、経営と工学の専門知識を有しているようで、技術にたいへん明るい方です。
つまり、ブランド化に成功する企業の技術的側面についても、的確に分析されているのです。
この点が大事なのだと私は思います。
卓越した技術や製品がまずあって、いつしかそれらはブランドというオーラのようなものを纏うようになるのだと考えています。
ですから、イメージやプロモーションだとか、デザインや商標などの側面のみから語られるブランド戦略というのは、非常に薄っぺらく見えます。
実体には触れずにオーラだけを語っても、何か上滑りしている感じになってしまいます。
上記の本で登場する企業は、有名企業ばかりではありません。タイトルのとおりローカルな企業です。
しかし、確実にコアな技術を有し、オーラを纏うに至った企業ばかりです。
読んでいて面白いのは、技術がブランドを成長させ、ブランドの成長がさらなる技術の発展を促すというプロセスが企業の中に形成されてくることです。
やはりこれらは不可分の関係にあるのですね。
そして、技術や製品がブランドのオーラを纏うに至る物語の形成過程には、非常に工夫がなされています。
それがブランド戦略の肝なのかなと私は思いました。
本の内容については書きませんので、何のことかサッパリだと思います。
一読をお奨めしたい本の一つです。
エンタテインメント企業に学ぶ競争優位の戦略
丸山一彦 著
(創成社)
この本は、エンタテインメント業界の雄たるジャニーズ事務所、そしてジャニー喜多川氏を題材として、競争に勝つ企業が備えている特性を分析しています。
本の前半では、ジャニーズ事務所の発展の歴史、そして、ジャニーズ事務所に所属するアーティスト達の特性を示し、後半では、これらを前提として、いわゆる超優良企業と呼ばれる企業や老舗企業などの研究から抽出される特性が企業としてのジャニーズ事務所に備わっていることを検証しています。
私はビジュアル的にジャニーズ系とは程遠く、またジャニーズアイドル(ジャニーズ事務所では所属するタレントを「アーティスト」と呼ぶそうです。以下、この用法に従います)に特に興味もありません。
では、なぜこの本を読んだのか?
それは、著者が冒頭で述べているように、エンタテインメント企業が生み出すタレントは、目には見えない「無形の価値」を備えており、この「無形の価値」が人を楽しませ、人をもてなし、顧客を惹きつけるからです。
私も知的財産権という無体の財産権を扱う職業です。技術やブランドとは異なる「無形の価値」というものに興味を持ったのです。
内容については述べませんが、ジャニーズのアーティストにはそれぞれコンセプト(個性)があり、それらは「ワイルドセクシー系」であったり、あるいは「面白かっこいい系」であったり、顧客である女性の求めるアイドル像を徹底的に研究した上で付与されているようです。
また、現在のジャニーズのアーティストは最初にジャニーズJrに入り、ダンスと歌を徹底的に鍛えられるそうです。歌って踊れるアイドルであることが基本であり、これを充たすまでに成長して初めてメジャーデビューに進みます。
ルックスもさることながら、基本をしっかり身につけた上で、かつ女性を惹きつける個性を備えたアーティスト達です。人気があるのも当然ですね。
うらやましがっていても仕方がないですが、このようなジャニーズアーティスト達を長きにわたって生み出し続けているジャニーズ事務所を題材としてマーケティングを学ぶ契機となる本でした。
いつしか私も、これを楽しみ、惹きつけられていました。
商標の類否 改訂版
櫻木 信義 著
(発明推進協会)
私は、上記の本の初版を買い、実際に使っていました。
商標同士の類否判断の傾向を調べる際によく参照しています。
初版は2011年の出版だったので、いつ改訂版が出るのかと待っていたところ、今年の夏に出たので早速購入しました。
とあるウェブサイトでの紹介によると、「著者が数多くの商標の類否の審・判決を四半世紀にわたって蓄積・分析し、項目ごとにリスト化したもの」だそうです。
私が気に入って使用している理由は、類否判断のパターンを分析し、項目分けがうまく行われている点です。紹介文のとおりですね。
著者の先生とは、以前に弁理士会の商標委員会でご一緒させていただいたことがあります。
企業の知的財産部で実務経験を積まれた話を、懇親会の席でうかがったのを覚えています。
商標実務に携わっている者であれば、類否判断の際の分析の視点が感覚として身に付いているのが通常です。ただ、それを上記の本のように分析し、体系化して整理しているところに、著者の凄さが現れています。
判断に迷ったときには、この本で下調べをして大筋を把握し、審査例などをつぶさに調査して当該案件における結論を出す、ということをしています。
商標の類否判断は日常的に行う業務なので、たいへん重宝しています。
余談ですが、最近アマゾンのブランド登録のため商標出願をしたいという相談を何度か受けました。
なるほどという感じです。販売ルートとして非常に大きいですものね。
プリズンホテル
浅田 次郎 著
(集英社)
数多い著者の作品のうち、私が最も好きな本です。
いろんなブログなどで紹介されていますが、先週からBSジャパンでドラマが始まりましたので、この機会にここで紹介したいと思います。
内容についてはご自身で読んでいただくのが最も良いでしょう。
私がこの本に出会ったのは2006年の秋です。
なぜ覚えているのかというと、外国出張の際に携帯したのがこの本だったからです。
忘れもしません。関西国際空港内の書店で偶然見つけ、面白そうなので出張中の暇つぶしになればいいや、という程度の気持ちで買ったのです。
ところが、読み始めると物語の中に引き込まれてしまい、飛行機の中、バスの中、ホテル内、挙げ句にトイレの中まで持ち込んで読み耽っていました。
おかげで出張中は完全に寝不足でした。
この本、笑いあり、涙ありの感動作です。
このようにサラリと書いてしまうと、「ふーん、そう。」で終わってしまいますが、涙の場面では、それこそ鼻水を垂らしながら号泣するほどに泣かされますし、笑いの場面は腹筋が痛くなるほど笑わされます。
著者が描く数々の登場人物達の強さや優しさ、そして純粋な心が、読む者の心にストレートに訴えかけてくるのです。
ところで、この本は第1巻から第4巻まであり、第1巻が夏、第2巻が秋、というように巻ごとに季節が移り変わっていきます。
なぜ第1巻が夏なのか?
それは、最終巻である第4巻を春にするためです。
第4巻では、物語の中で桜が実に美しく描かれています。そして、冬を経てきた桜の蕾が一斉に開花するように、登場人物達の人生が大きく花開いて物語は大団円を迎えます。
元気をなくしたときやつらいとき、私はこの本を読み返してきました。
そして、幾度となく力をいただいてきました。
私にとっては、そういう本なのです。
偶然にもこの本に出会えた自分は幸せだと本気で思っています。
日本農業の動き
点検 食料自給力
農政ジャーナリストの会 編
前回、農業に関する本を取り上げたので、ついでにもう一つ農業に関する本を取り上げてみましょう。
この本では、農業に関するテーマのうち食料の自給率の問題を扱っています。
自給率の計算手法は複数あります。詳しくは農林水産省のウェブサイトを参照して下さい。 一日一人当たりの国産食料から摂取されるカロリーを総摂取カロリーで割ることにより算出されるカロリーベースの自給率を見ても、ここ20年くらいは40パーセントのあたりを前後しており、相当低い水準です。
危機を煽るわけではありませんが、必要な食料のうち60パーセントを輸入に頼らなければならない状況というのは、安全保障上いかがなものかと思います。
食料の自給率を上げるためには、国内の農産物の生産量を増やさねばならないのは当然です。
この本では、大学や企業の専門家による様々な提言が盛り込まれています。
全体的な論調としては、農家(個人や農業法人)は他の産業分野において用いられる経営手法や技術を取り入れ、効率的に農業経営を行うべきであり、企業もまた積極的に生産・流通の場面に介入していくべきという流れです。
なるほどと納得させられる点もたくさんありました。さすがは専門家たちだとも思いました。
ただ、個人的には腑に落ちない点もありました。
それは、生産された農産物の流通市場についての話です。
高い品質管理が行われている日本産の農産物は海外で人気が高いため、販路として海外市場を目指すという話が出てきます。
腑に落ちないのはここです。輸出向けの農産物をいくら作っても、自給率は上がらないんじゃないの?と単純な私は思ってしまいます。
国内では消費しきれないため、余剰生産物の市場を求めて外国に進出するというのなら分かります。でも、上記のような自給率です。余剰など有るはずもないでしょう。
自給率を上げる話から、どうやったら国内産の農産物を輸出する話につながるのか、私には分かりませんでした。
私自身がもっと多面的に農業が置かれている状況を眺め、理解していく必要があるのでしょう。
農業の専門家ではありませんが、これからも農業を巡る政策や議論の動向に関心を持ち、見守ろうと思います。