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こんにちは、弁理士の宮﨑浩充です。
武士の成立
元木 泰雄 著
(吉川弘文館)
最近興味を持っていたことですが、明治の直前まで日本の政権を担当した武士という職業が、どのような経緯を経て出現したのか。これを詳細に解き明かした本を図書館で見つけました。
弁理士という職業も、いわゆる「士業」といわれることから、武士という職業と精神的に何かしら共通するものがあるのかとも思っていました。また、もっと根本的に、戦いを仕事とし、天下を支配するということに対して、憧れのようなものを持っていました。
この本では、武家による最初の政権である鎌倉幕府が成立するはるか前、律令時代にまでさかのぼって、武士の原形となる軍事官僚に始まり、戦闘を職業とする軍事貴族(兵の家)が出現し、鎌倉幕府成立当時における武士の形になってゆくまでの変遷が詳細に解説されています。
そして、それらがどのような時代背景の下で起こったのかがよく分かる説明がなされています。
そもそも戦闘を職業とする軍事貴族は、その名前のとおり貴族階級から分かれてきたもので、北方の脅威(蝦夷のこと)や大陸からの脅威(海賊など)からの防衛を目的として構成されていたようです。
軍事貴族が一般的な貴族とは別のものとみなされるようになってきた一因は、当時の日本では死を忌み嫌う考え方が出てきたことと、戦闘を仕事とするこのような階級が貴族社会からは畏れと共に嫌悪される対象であったことにあります。
貴族とはハッキリ別の職業として発展した武家は、自己の利権(利益)は自分の武力で守るという「自力救済」を基本として成立し、死を恐れない勇敢さや潔さなどを美徳とします。特に、死を意識しながら日々を生き、戦うという点で他のどの職業とも異なってきます。
読み進むにしたがい、たいへん気が重くなってきました。
ほのかな憧れの対象であった武士が、華々しさや美しさを持っている反面、もの凄く深い因業を有しているように思え、全く別世界の住人に見えてきたのです。
律令時代から明治に至るまで、1000年近く培われてきた独特の精神世界では、私たちとは全く異なる考え方や文化があるのでしょう。
これからは、安易に「士業」などと口にしないようにします。
武士というのはそんなに軽いものではないということが、よく分かった一冊です。