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こんにちは、弁理士の宮﨑浩充です。
射出成形大全
有方 広洋 著
(日刊工業新聞社)
プラスチック成形に関する基本的な解説書です。わけあって、成形技術に関する参考書を複数参照する機会がありました。それぞれに分かり易く解説されているのですが、ともすれば現場での作業における心得や金型の操作技術解説に流れてしまい、その業界とは縁のない人間にはよく分からないというものもありました。
その中で、上記の本が「広く、浅く」を徹底していたなという印象です。この本を読んでから、その他の本に書いてあったことの意味(技術的な位置づけ)が分かるようになりました。
私は初めての分野に関わる依頼を受けると、特許公報等の読み込みも行いますが、並行して基礎的な技術解説書も複数読みます。その上で、面談する際に不明な点を徹底的に専門家に聞きます。多くの弁理士が当然のように実践していることですが、私も勤務時代にそのように教えていただきました。
「(基本的な技術知識は頭に入れた上で)分からんところは徹底的に発明者に聞け。アホになってしっかり教えてもらえ。」と何度も教えられました。知ったふりをして稚拙な仕事をするよりは、アホになったつもりでしっかり話を聞き、完成度の高い仕事をする方が、依頼者の利益になります。そして、そのように仕事に取り組む姿勢が、「信頼」という形になって自分にも還元されます。
そういう、謂わばこの仕事にとって当然の常識を、当然のようにボスから教えてもらえた自分は幸せであると思っています。
書籍紹介からは大きく外れてしまいましたが、盆休み前の多忙な時期に、ふとそのようなことを思い出しました。
新幹線をデザインする仕事 「スケッチ」で語る仕事の流儀
福田 哲夫 著
(SBクリエイティブ)
新幹線300系、700系、N700系をはじめとする新幹線車両の開発プロジェクトに携わってこられたインダストリアルデザイナーによる著書です。あの独特の形の先頭部を持つ新幹線車両をデザインした人です。
製品を開発するに際しては、技術面を担当する部隊とデザインを担当する部隊とを置いている企業が、特に大手企業には多いかと思います。
私は以前から、後者の部隊の仕事について興味を持っていました。というのは、製品のデザインに関しては考えるべき要素が膨大であり、突き詰めて考え出すと収集が付かないのではないかと思っており、それらの考慮すべき要素に対してどのように折り合いを付けてデザインを生み出すのか疑問に思っていたのです。
この本は、著者がこれまでの仕事の現場において、どのような発想で、どのようなプロセスを経て製品のデザインを行ってきたか、そして、技術面を担当する部隊との折り合いをどのように付けてきたのかが書かれています。
特に、技術との関係では、折り合いを付けるというよりも、技術的課題を技術とデザインの両面から解決してきたことがよく分かります。
高速走行する新幹線の場合、空気抵抗を低減させる、揺れを減少させる、音を減らす、車両重量を適正化する、部品点数を少なくするなど、多くの課題があり、それらを解決した上で、さらに乗客が車外の風景を楽しめるなどの快適性を高められるようなデザインが考案されてきたようです。
課題の解決に際しては、技術的なアプローチからの解決案がまず検討されますが、そこには限界もあります。そのようなときに、まったく異なる視点というか発想からスタートするデザイン的なアプローチによる解決案が案外成功することがあります。
そして、デザイン面からのアイデアが技術的な検証を経て製品に反映され、世の中にデビューしたのが新幹線車両なのです。新幹線車両には、膨大な技術的なアイデアやデザイン的なアイデアが凝縮されています。
そのような目で新幹線の車内を見回すと、面白い発見ができます。
通常は目に入らないような細部にまで工夫が凝らされており、それらが総合的に私たちの快適な旅をサポートしているのだと思うと、人間の仕事の尊さを実感します。
ICTを活用した営農システム
野口 伸 監修
(北海道協同組合通信社)
流行りの「ICT」「農業」というキーワードに乗っかって読んでみました。
執筆者は、大学、研究機関、企業に属する研究者達です。一般向けの本ですので、細部の技術に関する説明は端折られており、分かり易く書かれています。
よく言われているように、画像処理や位置検出技術が農業分野に適用されている具体例が多く示されていました。なるほどと思うのと同時に、あともう一歩だなと思いました。
私の祖父は専業農家でした。毎日田んぼや畑に足を運び、作物の生育の度合いや水や土の状態をつぶさに見て回るのが日課でした。
見た結果を基に、農薬や肥料の選定、投入量やタイミングを細かく決定していました。農薬や肥料を、田んぼ毎に変えていることもありました。
それらの決定は、何かの法則に基づくものではなくて、全て親から教わったことや永年のカンのようなものに基づいていました。
それでも、一般的に難しいと言われるトウモロコシなども上手に作っていましたし、食べた私たち家族もおいしかったと記憶しています。
この本には、農業のICT化に際して、作物の生育モデルを構築するのが困難であると書かれていました。生育モデルというのは、簡単に言うとどのような条件が与えられると、作物がどのように育つのかという一般的なサンプルです。これを基にして、様々な技術を適用し、作物を実際に育てていくのです。
それは確かに難しいと思います。それこそが、ベテラン農家が持っている暗黙知(ノウハウのようなもの)なのでしょうから。
私が先ほど、あと一歩だなと思ったのは、農家の暗黙知をコンピュータに学習させるのにもう暫く時間が必要だからです。
作物は、基本的には一年のうち、ある時期にしかできません。一年間に取得される生育例(サンプル)の数は、どうしても限られるのです。
でも、農家はどんどん高齢化しています。農家から学習できるタイムリミットも迫っているのです。
そこには、非常にシビアな時間との戦いがあるのです。
もちろん、今は大学の農学部の実験農場などから知見を取得できます。ですから、ある程度の品質の作物を作れるようにすることは可能でしょう。
でも、ある程度の品質のものでは、付加価値がさほど高くはありません。
作物にあまり高い値段を付けられないのです。多くの利益が見込めないようでは、農業があまり魅力のある産業ではなくなってしまいます。
やはり一級品を作る必要があり、そのためには、ベテラン農家が持っている精緻なノウハウが欠かせないのです。
この本、2015年11月の出版です。そこから2年が経過しようとしています。
今はどうなったのでしょうか?間に合ったのかな?