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こんにちは、弁理士の宮﨑浩充です。
タイポグラフィスケッチブック
スティーヴン・ヘラー/リタ・タラリコ 著
(グラフィック社)
「タイポグラフィ」ってご存じですか?私は、つい最近まで、その言葉を知りませんでした。簡単にいうと、出版の世界ではフォントのような独特の装飾字体を指します。
でも、「フォント」とは違います。
その昔、フォントについての著作物性が争われた裁判例がありましたが、タイポグラフィはフォントとは異なり、書家による書と同様に著作物性が認められます。
この本は、欧文のタイポグラフィを集めたもので、字体というよりはもはや絵画というのがふさわしいような出来映えのものもあります。
眺めるというよりも鑑賞するという方が当たっており、飽きることがありません。
しかし、芸術的嗜好を充たすために私はこの本を購入したのではありません。もちろん、本業に必要だからです。
そう、著作権侵害が問題となる事件の相談を受けたのです。
創作性が争われる事件では、その分野における過去の作品や出版物などを幅広く分析する必要があります。その上で、果たして創作性があるのか、創作性があるとしてどの範囲で独占排他性を主張できるのかを検討します。
だから、私はこの本の他にも、タイポグラフィや欧文書体に関する書籍を調べました。
私は、特許公報を調べるのも好きですが、こういう調査をするのも好きです。普段の特許出願業務とは発想をガラリと切り換えて臨むのですが、この発想の切り換えが難しくもあり、面白くもあるのです。
弁理士の業務の醍醐味の一つであると思っています。
地理から見た信長・秀吉・家康の戦略
足利 健亮 著
(創元社)
久しぶりの歴史考察です。
歴史地理学ともいわれるような研究領域を開拓した著者の作です。
皆さんがご存じのように、織田信長は滋賀県の琵琶湖に面した安土山に安土城を築きました。水運の利を生かすことができ、また、京都への移動も船を使って時間短縮できるというメリットがありました。
しかし、私も登ったことがあるのですが、安土山はけっして急峻な山ではなく、岡のような低い山です。敵に攻められて籠城するとした場合、防御力はけっして高いものではありません。
琵琶湖岸には、ほかに観音寺山があり、信長が攻め滅ぼした六角氏の観音寺山城がありました。観音寺山は安土山とは異なり、ある程度の高さのある急峻な山です。防御という点では安土よりこちらを選ぶということもあり得たはずです。
しかし、観音寺山は急峻であるが故、船を城域内に接岸させるのに不向きだったようです。
著者によると、信長には安土城籠城などという発想はまったく無く、それよりも琵琶湖の水運をフルに活用でき、入るにも出るにも便利である点を重視したということです。
まさに天下人の発想だと思います。支配者の城には多くの人々が訪れます。また、出征などにより軍団を発することもあります。いずれにしても、信長の城は外に対して開かれたものであって、攻撃に対して籠城することを想定した城ではなかったということが言えそうです。
残念ながら安土城は信長の死後、すぐに焼失してしまい、後世にその威容を見せてはくれませんでした。
信長の話ばかりになってしまいましたが、まあいいでしょう。戦国武将にとって、地勢的な問題は現在の私たちが考える以上に重要な問題だったのでしょう。
それぞれの置かれた状況に応じて戦う方策を考える。今も昔も変わらない基本だと思います。
となりの革命農家
黒野 伸一 著
(廣済堂出版)
2015年出版の小説です。
私は、何人か好きな小説家があり、それらの小説家の著書を全て読もうとする傾向があります。
この作者も私の好きな小説家の一人です。
NHKでドラマ化された限界集落株式会社の作者です。
農家を舞台にした小説ではありますが、まるで経済小説を読んでいるかのような錯覚に陥ることがあります。
それは、農業という産業を「経営」するという視点から読み解き、そこに人間ドラマを散りばめて所定の結論に導いていくという書き方がされているからだと思っています。
そして、物語が進むに連れて論理的な展開があるのですね。
仮説→実行→失敗→検証→実行という流れがあり、なぜ失敗だったのか(なぜ成功したのか)を、技術の点から検証したり、経済原則の点から検証したり、読む者に実に説得的な物語の進められ方がなされているのです。
この作者の作品については、まだ全てを読んだわけではありません。
ただ、これまで読んだ他の物語と合わせると、作者のパターンのようなものが見えてきます。読者の支持を集めるだろうなという感じのパターンです。
そういうことをアレコレ一人で邪推するのもまた、小説を読む楽しみの一つです。
苦しかったときの話をしようか
森岡 毅 著
(ダイヤモンド社)
最近の話題になっている本です。
著者は、経営難に陥っていたUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)をV字回復させたマーケターです。
この本、こういうサブタイトルがあります。
「ビジネスマンの父が我が子のために書きためた『働くことの本質』」
私も父親なので、惹き付けられてしまったわけです。
私は、歴史学会の論考集など、およそ仕事とは関係のない書籍でも、興味を持てば読むことがあります。
意外にも、そういう本から知識だけではなくさまざまな教訓を学ばせてもらうことが多いのです。
一方で、書店の話題書コーナーなどに置かれている自己啓発本の類は読みません。主な理由は、そういう本に感銘を受けたり影響を受けるということがなくなってきたからです。
年のせいかもしれませんが。
ですから、今回はホントに久しぶりでした。
読後感は、感動したというわけではありませんでしたが、感心しましたし、共感することもありました。
著者の生き方に尊敬の念を持ちました(私と同年代の方ですが)。
ですが、影響を受けるということはありません。
頑なになっているのではなく、私は私のやり方があるからです。
それは、成功や失敗がたくさん詰まった、私自身の人生そのものだからです。
他人によって左右される度合いは、年をとる毎に少なくなります。「頑固ジジイ」とは、よく言ったものです。
ところで、久しぶりの更新になりました。
友人から、このコラムを見たよという声をいただきました。
読んでくれている人がいるんやね。ありがたいことです。
知的財産ファイナンス
小林 卓泰 著
(清文社)
2018年もいよいよ終わりです。
今年はこれまで経験したことがなかった仕事に携わる機会をいただき、たいへんでしたが楽しい一年でした。
標記の書籍は、特許の証券化に絡む案件で調査を行った際に読んだものです。これまで証券化による資金調達に関して業務で扱ったことはなかったもので、基本的な仕組みから勉強する必要がありました。この本のおかげで、随分と理解が進みました。
出版されたのは2004年で、わりと昔の本になるかと思います。信託法が2005年に改正され、受託財産に知的財産権が加わった頃、これを解説する書籍がいくつか出ていたのを記憶していますが、改めて読んでみても、私にはこの本が分かり易く、しかも知りたいことが細部まで解説されていてよかったです。
弁護士の先生が書かれたものなので、法的な問題点や処理がきちんと示されているため、実務の指南書としてたいへん役に立ちました。
商標や著作権に関しては、証券化を含む様々な資金調達の手法が進化してきています。一方、特許権の方はというと、なかなかに難しいようです。
ま、そうでしょうね。
当然のことですが、弁理士としては、やはり強い特許権を依頼者にもたらせるよう、出願時書面の質をブラッシュアップし続けないといけないなと思います。
これからも一年一年を大切にし、腕を磨いていきます。
そして、新たな経験を楽しみながら弁理士として成長し続けていきたいなと思っています。
皆さま、よいお年を。